戦略・マーケティング

自社のブランド価値を守るためには? エン・ジャパンの事例から見る対策|第9回クオリティメディアコンソーシアム オンラインセミナーレポート

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デジタル広告には、botなどによる「無効クリック」という課題が存在します。その対策の重要性について、エン・ジャパン株式会社 田中奏真さんが、自社の失敗の経験を共有しながら、解説しました。

無効クリック対策の失敗から学んだ「即行動」の重要性

皆さんこんにちは。エン・ジャパンの田中奏真です。よろしくお願いします。
本日は「無効クリック対策の失敗から学んだ『即行動』の重要性」をテーマにお話しをさせていただきます。

田中奏真氏
エン・ジャパン株式会社

2006年に神戸大学経営学部を卒業後、エン・ジャパンに新卒入社。法人営業を経てサービスのマーケティングを担当。社内のマーケティングを再定義し、プロモーションからプロダクト改善までを一気通貫で行う組織を構築。インハウス化を主導し、マーケティング組織を10倍に成長(7名→70名)。実力ある若手を抜擢し、20代のリーダーや女性管理職を育成。2022年に執行役員に就任。

私のいちばんの大きな失敗は、「無効クリックの存在に気づいていなかった」ことです。

診断ツール「Spider AF」でわかった、エン・ジャパンにおける無効クリック数と想定被害額。調査の結果、年間約1.5億円の被害リスクが判明した 

弊社ではデジタル広告における「無効クリック数」と「想定被害額」を2022年に調査しました。無効トラフィックの種類は複数ありますが、多いのが「同一ユーザーの大量クリック」です。

24時間で1人の方が300回クリックしていたというケースもありました。人間ではないプログラム、botによるクリックも多数確認することができました。弊社では、クリック課金の広告を非常に多用しており、そのCPC(クリック単価)が100円とすると、年間約1.5億円もの被害に遭っていたことがわかりました。

なぜ、こうなってしまったのでしょうか。
2009年、私がマーケティング部門に異動した際は、わずか7名の組織でした。多くの業務は、広告代理店の力を借りている状態。依存している部分も多く、我々自身に能力や知識が不足していたと感じます。デジタル広告の「透明性」の観点という話をこちらからすることもできていませんでした。

そんな反省から、10年かけて、デジタル広告のインハウスのチームを構築。2019年には、20名にまで組織を拡大しました。

無限クリックの無料診断をしたことで、年間1.5億円の被害リスクが判明

エン・ジャパンのマーケティング組織の変遷。メンバーを増員しながら、自社での対応領域を拡大していった

デジタル広告のインハウス化の次に、プロダクト改善にも取り組みたいと考えました。デジタル広告をインハウスに移行したことで、ファーストパーティデータを取得できるようになったからです。そのデータを活用して、リサーチやプロダクト改善につなげたいと思い、2023年までには、さらに組織を拡大することができました。

結果、組織を拡大したことで、さまざまな広告を配信したり、マーケティング課題を解決する仕組みが作れるようになりました。一方で、組織が大きくなると、それだけの成果を出したくなるもので、業績を上げることに注力しがちになります。そのため、広告の評価をクリック数で捉えるという、視野の狭い仕事をしてしまっていた時期がありました。

「無効クリックはニュースで見たり聞いたりしているし、自分はそれなりに情報収集もしているし大丈夫だろう」と、問題から目を背けていたのは事実です。ただ、2022年に、このままではいけないと、無料診断を実行し、先ほどのように、およそ年間1.5億円の被害リスクが判明したわけです。

2022年の診断から2024年までに、エン・ジャパンがデジタル広告で実行した対策の流れ

問題から目をそらしていたという失敗を生かし、同年には「無効トラフィック対策」を実施。さらに、ブランドの価値観やイメージに合うメディアに広告を掲載する「ブランド適合性の向上」にも努めました。先行して対策を進めていた企業と比べると、出遅れてしまった思いはありますが。

2022年の段階で、「対策が遅れたから、もう駄目だね」と諦めるのではなく、「遅れたからこそ即行動」したことで、スムーズに進めることができました。マーケターみなさんには、「即行動」、つまりは自社のデジタル広告の無料診断から始めてみることを、おすすめしたいです。

無効トラフィックの対策をしている広告主は、3割にも満たない

「デジタル広告課題意識調査2024年」(JICDAQ)によれば、無効トラフィックについて「対策している」と回答している広告主は、25.6%と、3割以下です。

無効トラフィックおよび、アドフラウドの対策状況 出典:JICDAQ「デジタル広告課題意識調査2024」

アドフラウド(広告詐欺)も同様です。広告主のパートナーである広告会社でも、対策を行っている企業は少なく、現状を変えるためには、対策を講じる広告主が増えていくことが重要だと考えています。

私の失敗をシェアして、こうしてお届けしているのは、そのためです。
ただ、被害への対策をするというのは、とても地味な作業です。会社によっては、手を挙げる人がいなかったり、手を挙げて実施しても評価されない場合もあるでしょう。

それが対策率の低さになっていると思われます。少しずつでも、無効トラフィックの対策が必要だと考える広告主、マーケターを増やしていくことが重要だと私は思っています。

無効クリック対策で、業績も向上

あらためて、エン・ジャパンについてご紹介します。

エン・ジャパンは、2000年設立。2024年3月期の売上高676億円のうち、広告宣伝費がおよそ200億円を占めます。

エン・ジャパンの企業概要

2022年に発表した中期経営計画の中で、広告費への投資を強化することになりました。売上向上とユーザーの支持を獲得する目的のために、無効トラフィック対策を進めていきました

弊社では、複数の転職サービスを運営しています。ハイクラス領域のスカウト転職サービスを2つ運営しており、ひとつが「ミドルの転職」、もうひとつが「AMBI」です。この2つのサービス訴求におけるデジタル広告の、無効トラフィック対策およびアドフラウド対策を進めた結果、業績は前年同期比で、売上高は3.4%増、営業利益は2億2600万円増となりました。

エン・ジャパンが運営するハイクラス領域のスカウト転職サービスでは、デジタル広告の抱える課題への対策を進めた結果、売上高も営業利益も向上。無効トラフィックなどの対策を進めることは、業績にもプラスに働くと考えられる

広告主にとって不都合な真実「トラフィックの約40%が不正」

CHEQの調査によれば、複数種の不正トラフィックによって、トラフィックの約40%が不正なもの

一方で、「広告主にとって不都合な真実」があります。
それは、「トラフィックの約40%が不正」という事実です。無効トラフィックおよび無効クリックの種類は、botによるものなど、多岐にわたります。

不正トラフィックや無効クリックというのは、複雑化しており、理解するのは決して容易ではありません。しかし、「対策したい人は手を挙げてください」と言えば、全員が手を挙げるはずです。一方で、広告主で実際に対策を講じているのは、3割未満というのが真実です。

エン・ジャパンでは、セキュリティ・スイート「CHEQ」を2023年12月に導入したところ、2024年10月には、不正クリック率が61%も減少しました。

ツール導入によって、エン・ジャパンでは不正クリック率が61パーセント減少した

減少率が上下しているのは、生成AIを活用した「MFA(Made-for-Advertising)サイト」の影響が大きく、遮断してもまた新たなMFAサイトがすぐに登場していくからだと推測されます。

対策は、いたちごっこであると考える広告主やマーケターもいるかもしれませんが、時間をかければ確実に効果は現れます。たとえ広告費の1%であっても、200億円なら2億円の効果となります。広告費の最適化は利益につながり、新たな事業成長につながるトライアルも可能です。そうした循環をエン・ジャパンでは実現できるようになりました。

エン・ジャパンでは、外部ツールを導入したことで、不正クリックが大幅に低減。デジタル広告の投資効果の向上に寄与した

「業績」と「ユーザー体験の向上」の両立は簡単ではありません。無効クリック等の対策を進める際にも、「ユーザー体験をよくしましょう」だけでは、なかなか社内の承認を得づらいケースもあると思います。しっかりと、業績向上につながることを証明することが大事だと思います。

無効クリック対策によって利益がこれだけ守れます」と、数値化したレポートをする。「増えた利益で新たな施策を実行します」となれば、よい循環プロセスが生まれるのではないでしょうか。

対策を進めるためには、熱量を持続させる仕組みが必要

最後に、「みなさんと一緒に実現したいこと」をお話ししたいと思います。

ご紹介したような対策を進めるためには、熱量を持続させる仕組みが必要です。私自身、2022年に無効クリック対策をスタートし、以来、つねに熱量を持って取り組んでいたかといえば、そうではありませんでした。よき外部パートナーを見つけ、自社の熱量を伝え続け、つねに相談できる環境を構築することをおすすめします。

ブランドセーフティや無効トラフィックの領域に強い会社さんは、多くあります。自社で完結するのではなく、パートナーと組んで課題を解決していきませんか?

そしてもうひとつ。JICDAQ(一般社団法人 デジタル広告品質認証機構)の「登録アドバタイザー」を増やして、そのコミュニティを大きくしたいと考えています。

登録するとデジタル広告に関するさまざまな知見が提供されます。広告会社の方にはぜひ、クライアントに対して「JICDAQに登録されていますか?」とお聞きいただきたいと思います。その輪が広がることでブランドセーフティへの熱量も業界全体で高まっていくと私は思っています。

私は最近、採用面接に関わっているのですが、就活生たちは、デジタル広告の抱える課題を問題視しており、広告やマーケティング自体にネガティブな印象をを抱いているケースもあります。優秀な若手が入社しなければ、事業成長も難しくなります。つまり、デジタル広告の課題を放置することは、組織の成長の阻害や、未来の事業成長の阻害につながる可能性もあるのです。

私も含め、ともにこのデジタルマーケティングの世界をよくし、ユーザー体験をより良くしていくことを目指し、今後も一丸となって、デジタル広告の健全化のための取り組みを進めていけたらと思っています。


開催概要
第9回クオリティメディアコンソーシアム オンラインセミナー
■開催日時
5月29日(木) 17:00〜18:00
■登壇者
田中奏真(エン・ジャパン株式会社)

記事をぜひシェアください

編集/赤坂匡介(C-station)

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