戦略・マーケティング

日本の伝統美を、世界に、未来にむすぶ「Musubu STUDIO」 河野友香が考える、守りと攻めの地方創生

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2025年5月、フランス・カンヌでデビューしたサステナブルラグジュアリーブランド「Musubu STUDIO(ムスブ スタジオ)」。使われなくなったヴィンテージ帯を一点もののバッグやアクセサリーへとアップサイクルし、日本の伝統技術とその美しさを世界へと発信しています。

ブランドを立ち上げたのは、外資系企業でキャリアを積み、起業家として幅広い事業を展開する河野友香さん。後継者不足などで継承が危ぶまれる日本の伝統工芸や、地域に根ざした文化資源をどのように次世代へつなげていくのか──。「地方創生」のひとつの可能性を感じさせるこの取り組みの意義や、ブランド立ち上げの背景などを伺いました。


失われゆく日本の伝統を未来へ。地方で感じた課題感から生まれた「Musubu STUDIO」

日本の伝統技術を世界へ届けるラグジュアリーブランド「Musubu STUDIO」。「ウェアラブルアート=身に纏うアートピース」をコンセプトに、伝統工芸とファッションを掛け合わせた唯一無二のアイテムを世界に向けて発信しています。

ブランド立ち上げの背景には、河野さんが外資系企業でマーケターとして働いていたときの葛藤や、地方を巡る旅のなかで得た原体験があるといいます。

河野友香さん
河野友香さん
BranPeak合同会社 創業者兼CEO / Musubu STUDIO Brand Director / 共創DAO合同会社 Co-Founder / AI Marketing BB Director
デジタルマーケティング、Web3、AI領域で多岐にわたる事業を展開する起業家。総合広告代理店や、Marc Jacobs、DIESEL、Triumphなどの外資系企業にてデジタルマーケティング部門の統括を歴任。さらに、フィンテックスタートアップのマーケティング責任者も務めるなど、多様な業界で豊富な経験と実績を持つ。

「外資系ファッションブランドでのキャリアは有意義なものでしたが、ある日ふと『日本のために何もできてないのでは』と感じたんです。いわば私は、海外のものを日本で売り、海外にお金を流す“担い手”。日々数字に追われるなかで、本当にこのままでいいのかと考えるようになりました」

その後、河野さんはキャリアを手放し起業を決意。同時に、自分自身を見つめ直すために日本各地を巡る旅に出たといいます。最初に訪れたのが、ブランド始まりの地ともいえる瀬戸内でした。

「瀬戸内では、大学時代の旧友と再会しました。私が抱いていた葛藤の話をすると、彼女の教え子の話をしてくれたんです。『漆職人になりたい』という夢を抱く生徒がいるけれど、親から『それでは食べていけない』と反対されている、と……。ヨーロッパには職人の地位や待遇を保障するマイスター制度が浸透していますが、日本はまだまだ厳しい現実があるのだと感じました。

また、全国を巡るなかで出会った職人たちからは、『自分の代で終わるだろう』と、どこか寂しげな声を何度も耳にしました。そうした現状に触れるなかで『受け継がれてきた技術や想いを未来へつなげたい』という気持ちが自然と芽生えていったんです」

Musubu STUDIOのロゴ、プロダクト

こうして誕生した「Musubu STUDIO」。使われなくなったヴィンテージ帯をアップサイクルするというアイデアも、かつて晴れの日を彩った着物や帯が、フリーマーケットで叩き売られている光景を目にしたことが出発点でした。

ヴィンテージ帯を現代のファッションアイテムへと再構築し、日本の伝統工芸の美しさと物語をいま一度見つめ直す──。伝統を未来へとつなぐ新たな価値創出を目指し、河野さんの挑戦が始まりました。


海外で得た評価は、日本の自信にもつながる。世界を舞台にはじまる地方創生

ブランド名の「Musubu」には、「過去と未来」、「人と人」……そして「地方と世界」をつなげたいという想いが込められています。世界を見据えて、デビューの地をフランス・カンヌに選んだ理由について河野さんは、「日本の伝統や文化の価値を、日本の人々に再認識してほしいという願いがあったから」と語ります。

「瀬戸内からスタートすることも考えましたが、マーケティングリサーチのために各国を巡るなかで、日本文化に対する海外の高い関心とリスペクトを強く実感しました。とりわけフランスは、日本が好きで、日本文化への造詣が深い人も多いんですよね。そしてカンヌは世界中のクリエイティブな人々が集まる場所。一点物の“ウェアラブルアート=身に纏うアートピース”というコンセプトとも親和性が高いと感じたんです」

Musubuクラッチを合わせたセレブたち
街中で存在感を放つスタイルにMusubuクラッチを合わせたセレブたち

現地では、レッドカーペットを歩くセレブたちにギフトとしてクラッチバッグを提供。海外の俳優や業界セレブリティたちから高い評価を獲得したといいます。

「ヨーロッパはパーティー文化も盛んで、一点物への強いこだわりや、文化的価値を重んじる空気感がある。そうした土壌であれば、日本の伝統工芸の美しさをしっかりと伝えることができると感じ、あえて海外市場から勝負しようと決めました。海外で高く評価されたものを“逆輸入“することで、日本の人たちにも『日本の伝統文化はこれほど価値があるものなんだ』と、もう一度自信を持ってもらえると信じています」


地方創生は、 “守り”と“攻め”の2軸で考える

河野さんは「Musubu STUDIO」のほかに、Web3やDAOの仕組みを活用して地方創生に挑む「共創DAO合同会社」の共同創設者としても活躍中。地域創生を目的とした大規模イベント「NEO四国88祭」の開催や、地域コミュニティ活性化アプリ、地域トークンの開発に地域の人々と取り組んでいます。(詳しくは、こちらの記事をご覧ください)

共創DAOの活動が“守り”だとすると、『Musubu STUDIO』は“攻め”の地方創生だ」と河野さん。

「たとえば今、日本はインバウンド需要でさまざまな物価が高騰していますよね。そこにWeb3の仕組みを用いて地域トークンを発行することができれば、地域住民が適正価格で物を買うことができる。つまり、地域を守る仕組みを構築できると考えています。共創 DAOでは、まさにそうした“守り”の姿勢で、地域の共創関係構築に向けて取り組んでいます。

一方で、Musubu STUDIOでは、地域に根ざした文化や技術の価値を世界に向けて発信し、外貨を獲得する“攻め”の仕組みをつくっています。地方創生は、どちらか一方では成り立ちません。守りと攻めの両輪を走らせてこそ、持続可能な未来が見えてくると感じています」


瀬戸内のクリエイターたちと一緒に、持続可能な地域の循環モデルをつくる。「Setouchi Collection 2025」

そんな河野さんが2025年6月23日、次なる挑戦として発表したのが「Setouchi Collection 2025」です。ブランドのはじまりの地である瀬戸内の海と空をイメージした「瀬戸内ブルー」を基調とした優美なデザインで、クラッチやトート、ヘアアクセサリーなど、5アイテムを展開しました。

Musubuのプロダクト
「Setouchi Collection 2025」のダブルリボンクラッチとMusubuロゴをモチーフにした瀬戸内ブルーの水引アクセサリー。オンラインストアでも好評発売中。

本コレクションの最大の特徴は、制作に携わるスタッフ全員が瀬戸内にゆかりのある人物であること。ブランドムービー制作やスチール撮影、そこで使われる小物の制作に至るまで、“オール・メイド・イン・瀬戸内”にこだわっています。6月24日からは、香川県さぬき市の一棟貸し宿「瀬戸内Tabio」の宿泊者限定展示スペースにて、ミニポップアップ展示も開催しています。

「『Musubu STUDIO』は、地方から世界へチャレンジできる環境をつくるという、実証実験でもあるんです。もちろん東京や海外の大手プロダクションを使えば、洗練された発信もできるでしょう。しかし、地方には、まだ知られていない才能や素材が数多く眠っています。だからこそ、ローカルで活躍するクリエイターたちと一緒に、地方発で世界を目指せる環境をつくりたいと考えました。

最終的な目標は、地域の人々が自走できるような環境をつくること。地域が主体となって発信し、地域の職人へと還元される『持続可能な循環モデルの構築』を目指していきたいと思っています」

地域の文化資源を活かし、ローカルからグローバルへ──。河野さんの世界を巻き込んだ「地方創生」はまだ始まったばかり。これからも地域の人々とともに挑戦は続きます。

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    川崎耕司

    Cステーション チーフエディター

    Cステーション責任者。Cステーション グループの、広告会社・広告主向け情報サイト「AD STATION」も担当。

文/室井美優(Playce) 取材・編集・コーディネート/川崎耕司(Cステーション)

Edited by 川崎耕司

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