インターエフエムで毎週水曜日21:00から放送している「J LIVE RADIO」は、「仕事も遊びも本気!」なビジネスパーソンを応援するラジオプログラム。DJを務めるのは、株式会社サン 代表プロデューサー / コネクターの田中準也さんと、Cステーション エグゼクティブプロデューサーの長崎亘宏です。毎回、各界で活躍するビジネスパーソンをゲストに迎え、「人生のステージ」についてや、「人生を楽しむ秘訣」をお伺いします。
7月16日のゲストは、元・株式会社ポーラ 代表取締役社長で、現在は一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事、自称「ジョブレスなフリーター」の及川美紀さんです。
*Podcastでもお聴きいただけます!
<ゲスト>

東京女子大学文理学部卒業。1991年に株式会社ポーラ化粧品本舗(現・株式会社ポーラ)に入社。2012年に執行役員、14年に取締役就任。2020年より同社代表取締役社長し、2024年末に退任した。また、2021年にダイアローグ・ジャパン・ソサエティの理事に就任し、東京・竹芝にあるインクルーシブ・ソーシャルエンターテイメント「対話の森ミュージアム」の運営をサポート。2025年から、一般社団法人Toget-HER 代表理事、一般社団法人MASHING UP理事として、ダイバーシティ&インクルージョン、女性リーダーの育成をテーマとしても活動。同年6月から、三井住友DSアセットマネジメント株式会社 社外取締役、マツダ株式会社 取締役にも就任した。
会社員時代は「天下のサンドバック」で有名だった⁉ 逆境を受け入れ、乗り越える秘訣とは?
田中:J LIVE RADIOの記念すべき最初のゲストは、及川美紀さんです。及川さんは昨年末にポーラの社長を退任され、現在は自称「ジョブレスなフリーター」として、新たな人生のステージを歩み始めています。私とノブさん(長崎亘宏)は、2年前の「Advertising Week Asia」のキーノートで及川さんと一緒に登壇させていただきましたが、Cステーションに掲載したレポート記事も反響が良かったのではないでしょうか。
これから及川さんの新しいステージについて聞いていきたいと思います。まず、現在は自称「ジョブレスなフリーター」とのことですが、ジョブレスといっても、だいぶジョブフルですよね(笑)。
及川:会社を辞めてしばらくジョブレスなフリーランスとしてのんびりしようかなと思っていたところ、次々といろいろなことを頼まれまして。それらを引き受けているうちにジョブフルにはなりましたが、個人として、己の足で立つという意味で「ジョブレスなフリーランス」というのが、今の私のテーマ。ですから、名刺も真っ白です。
田中:どこにも所属しないで、及川美紀さん個人で頑張ろうということですね。では、これまでの人生を振り返って印象的な節目を一つ挙げるとすると何になりますか。
及川:自分を変えた瞬間という意味で、ポーラ時代に課長試験に落ちたことでしょうか。試験に落ちた私は、分かりやすくグレたんですよ。ドラマ『3年B組 金八先生』で言うところの「腐ったミカン」(笑)。金八先生は古いかもしれませんが……。
田中:不良少年の加藤ですね。
及川:当時、グレた私に金八先生のような人が言葉をかけてくれたから立ち直ることができたんですよね。その一言がなかったら、我が足で立ってフリーランスをやることはなかったかもしれません。おそらく今も会社に所属して、同僚と居酒屋に行って上司や会社の悪口を言っているのではと想像できるんですよ。
長崎:講談社には『課長 島耕作』というマンガもありますが、課長は、組織で部下を持つという分かりやすいステージですよね。そこで最初のつまずきがあったのは、とても意外でした。
及川:去年までは私も終身雇用の典型的なジャパニーズ・ビジネスパーソン。「座右の銘は滅私奉公」といった時代もありましたし、例えば意にそぐわぬ異動があったり、意見の合わない上司がいたり、地方に左遷させられたり、試験に落ちたり……。ビジネスパーソンのネガティブなこと、みんなが「うわー」と思うようなことはだいたい全部経験しています。
でも逆に、それらを乗り超えて昇格したとか、チームみんな協力して成し遂げたとか、画期的な商品を開発してお客様に喜ばれたとか、達成感も同じぐらい味わってきて。
だから、ネガティブなこととポジティブなことは表裏一体で、片方だけでなく両方あるから人生なんだなと強く感じていました。
田中:学びのある経験という意味で、ネガティブとポジティブは等しく自分の身になっているという感じですね。
及川:そうですね。調子に乗っていると失敗することもあるけれど、落ち込んだ時に手を差し伸べてくれたり、あるいは叱ってくれた人がいるから、また頑張ろうと思える。そして、挑戦していくうちに成功することもあって、これまでと違うさらなる達成感が味わえて……。そういう経験を山ほどしてきました。
長崎:及川さんのように生きるには、心身ともにかなり柔軟でないと難しいですね。失敗を受け入れられるメンタルと、立ち上がれるだけの足腰が必要です。
及川:私には当時、「天下のサンドバック」というあだ名があって、社内では「及川サンドバック状態」とよく言われていました。そもそもサンドバックというのは、本気で鍛えようと思って打つわけですから、苦しいけれど、打たれることにも意味があるんです。
常にガチンコ勝負で、打たれた後は「ちくしょう。あいつ許せん」とか言ったりしますが、「また頑張ろう」という気持ちにもなるんですよね。
美容業界から金融業界、自動車業界へ! モノではなく、コトを生み出す挑戦は続く
田中:及川さんは、社長就任の時も含めて、頼まれると断りませんよね。
及川:断らないですね。50代半ばを過ぎている人に何かを頼む場合、その人にやってほしいテーマがしっかりあるはずだと思っています。私の周りには、そのテーマをきちんと考えてから頼んでくださる人がとても多いんですよね。
田中:及川さんのことをいい意味で調べ上げて、「こういうところが期待できるだろう」と感じたからこそ、今回の社外取締役を頼まれた感じがしますよね。
及川:そうですね。以前からコミュニケーションを取っていた方からお願いされることが多く、本当にとても丁寧にオファーをくださっているんです。
長崎:ここでリスナーの方にお伝えした方がいいと思うんですけれど……。私たちが最近一番びっくりしたのが、マツダ株式会社 取締役ご就任のニュースでした。及川さんほどのキャリアがあれば当然、これまでの延長線上であるビューティー業界や関連ビジネスに行かれるのかなと思ったんです。ご就任は、つい最近のことですよね?
及川:はい。6月25日でした。美容業界に関しては、ポーラというステージで全てやり切ったという感覚があって、今後は私でなくてもいいと思ったんですよね。同時に、「自分の学びのため」という意味もあります。これまでに培った顧客視点やブランドに対する考え方を活かせば、どのような業界でもお手伝いできると思ったんです。
加えて、今の私の大きなテーマが、ジェンダー・ダイバーシティとウェルビーイングです。この二つを掛け合わせて、組織マネジメントや組織デザインを推進することで、多様な企業にお役に立つことができるのではないか。そう考えていたら、全く毛色の違う企業からお声がかかったのです。また、自動車業界のみならず、三井住友DSアセットマネジメントという金融企業の社外取締役にも、6月24日から就任することになりました。
田中:我々もびっくりしたのですが、いずれの企業からもダイバーシティ&インクルージョンやウェルビーイングという、及川さんが常に真ん中に立たれてきた分野に期待が寄せられています。
及川:そうなんです。結局、私は前職でも事業を通して、さまざまな人間ドラマを見続けてきたんですよね。お客様との繋がり、チームの人たちとの繋がり、あるいは本社やステークホルダーとの関係性を構築する中で、人間の良いところも悪いところも、嬉しいところも悲しいところも、全て見てきたんです。
ダイバーシティや組織マネジメント、ウェルビーイングの領域も同じく、人間の話じゃないですか。「今後、人間がどのように変化していくとより幸せに仕事ができるのだろう」という問いに対する答えが、これまでの私の仕事の中に詰まっていた。その経験をポジティブに変換して、より良い世界を作っていくことが一つのテーマかなと思っていました。
長崎:私もそれを十二分に感じていました。及川さんはポーラ在任中、メーカー目線で言うと「美しくなるためのモノ」を販売するビジネスをされていた。ですが、お仕事のアウトプットを拝見すると、「美しくなるためのモノ」ではなく、「美しくなるためのコト(方法、思考、行動など)」を追求していた気がするんですよ。
金融業界にしても自動車業界にしても、モノやサービスだけでビジネスを成立させるのは限界があるので、いかにコトを追求するか。例えば自動車業界でいうと、モビリティという概念がそうですよね。そこに及川さんのノウハウが求められていると思います。
及川:生き方や暮らし方は、これからますます重要になっていくと思います。金融業界で言えば、人とお金ってやっぱり切り離せない部分っていうのがあって、お金を上手にうまく使えば人は幸せになるし、じゃ、多ければ多い方が良いいいのかとって言ったら、決してそんなわけでもない。企業の方も、「やっぱり効果的にお金をうまく循環させるてこその世の中の仕組み」みたいなところを、やっぱりおっしゃるんですよね。
「人生のサードステージ」は旅に出ること! 誘いに断らないから、楽しみが広がる
田中:及川さんはポーラ時代から、地方を飛び回っていたイメージがあります。それこそ地方のショップ、サロンにまで行ってらっしゃって。
及川:今もかなりの頻度で地方に行っています。マツダは広島が拠点ですし。
田中:ローカルに目を向けるパッションは、どこから生まれているのですか?
及川:私がローカル出身だからだと思います。父の転勤で埼玉県や静岡県で暮らし、その後も小学3年生から高校を卒業するまでは宮城県の石巻市に住んでいました。各地でローカルな体験をしてきた中では、「ローカルだからすごいことは実現できない」という思い込みと、「東京と違う環境で、みんな頑張っているんだ」という気持ちに挟まれて、ハートが揺さぶられるんですよ。今はもう東京生活の方が長くはありますが、地方女子だった私にはシンパシーがものすごくあるんですよね。
長崎:そんな及川さんに、「人生のサードステージ」を聞いてみたいと思います。一つめのステージが会社や働く場、二つめのステージが家庭やプライベートだとしたら、及川さんを支えているサードステージは何ですか?
及川:旅ですね。旅をするために働いていると言っても過言ではありません。
田中:確かに、ポーラ時代から旅をしているイメージがありますね。しかも、及川さんのSNSを見ていると、旅先で知り合いと遭遇する率が高くないですか?
及川:ご縁でしょうか。自分の人生に関わる人は全部で1000人ぐらいしかいないのではとよく言っているんですが、それにしても友達や、友達の友達に偶然会うことがとても多いんですよ。「今、ここにいます」と連絡すると、「私もいます!」みたいな(笑)。「急だったからお店の席が足りないのだけれど、無理やり椅子を入れてもらった」と言われて、私も合流したり。
長崎:旅先でも、断らないんですね!
及川:私だけでなく、周りにいる人たちも断らない(笑)。いわゆる、類友ですね。
田中:断らない人同士なので、時間もきっちりと調整する。だから、会える確率がますます高くなるんですね。
転機に突きつけられる「さあ、ここからどうする?」人生の問いに真っ向から答え、新たな道を切り拓く
長崎:先ほどはあえて言わなかったのですが、勇気をもって言います。及川美紀さんという神輿を、「わっしょい! わっしょい!」とみんなで担いでいる気がします。
及川:担いでいるのでしょうか? でも私、自称「天下の雑用係」なんです。「天下の」という言葉には魔力が結構あって、「このぐらいどうってことない」と思わせてくれるんですよ。
例えば、「天下のサンドバック」として打たれまくっても、どうってことない。むしろ、「さあ、ここからあなたはどうする? 立ち上がるの? それともグレて、地に落ちていくの?」と、自分の人生から問いを出されている気がしたんです。「どんなにズタズタになっても、何かを答えなければ」と考えたら、その後はポジティブなことしか思い浮かばないじゃないですか。この考え方は、ビクトール・フランクルの本から学びました。こういった思考転換は、とても大事なことですよね。
田中:勉強になりますね。
及川:同じように例えば、昨年末に社長を退任した時。「社長ではなくなります」と親会社から通達された私は、「では、ここからの人生をどう生きるんですか?」と問われていた。だったら、その問いに対しての答えを出せばいいわけじゃないですか。
田中:僕も3月に代表を退任したので、おっしゃることがよく分かります。退任後の4月からの心境は、及川さんと一緒。個人として生きることになったので、「どう生きるか?」を本当に問われているんです。
及川:私の答えは、真っ白な肩書きのない名前だけの名刺に表れていると思います。33年間、大好きな会社で働いてきて、「ここでやることはもう終わった」という一つの区切り。決してネガティブな辞め方はしていないし、親会社も私に新しいポジションを提示してくれた。断るのは勇気がいるし、期待に応えたいという気持ちもありました。
でも、及川は社長ではなくなります。私は、「楽しく仕事してね」という遺言だけを残してスッキリ終わり。今のポーラには、私の影はないと思います。
田中:それは潔いですね。
及川:自分の中で、区切りを付けるためだから。会社のためでなく、私のエゴに近いんです。そして今度は「組織という枠組みを外して、挑戦できることはあるのかな」と考えていたら、Toget-HER やMASHING UPからお声がかかったのです。私と、私のことを真剣に考えてくださった方々とが、ご縁も含めて呼び合ったのかなと感じました。
長崎:及川さんは人生の問いに答え、本当の意味で解放されていますよね。素晴らしいと思います。
田中:このまま聞いていたいんですが、あっという間にお時間になってしまいました。及川さん、今後の予定はどんな感じですか?
及川:今言ったようなウェルビーイングやダイバーシティを軸に、できることを着実にやっていこうと考えています。引き受けた2社の社外取締役はとても責任の重いことですし、私もバリューを出さなければならない。企業価値を上げることに邁進するので、しっかりと時間を使って取り組んでいきたいたいと思っています。
また、日本の女性たちの置かれている環境はまだまだ伸び代がある。世界的に見てもしっかりと力を付けている女性たちがさらに社会で活躍できるようになると、日本全体にも良いことが広がっていくはずです。そして、女性たちのエンパワーメントと、企業サイドのダイバーシティの実現を推進していけば、ウェルビーイングにも繋がると信じています。
幸いにも大学に関わることもあり、学ぶ機会をいただいています。例えば有識者に講演をお願いするほか、多くの人に会う機会を自ら作り、思考の幅を広げていければと考えています。
田中:それでは最後に及川さんのパワーソング、人生の1曲を聴きながらお別れしたいと思います。及川さんから選曲の理由と曲紹介をお願いします。
及川:私の人生のパワーソングはこれ一つです。中島みゆきさんの「ファイト!」。本当に辛い時には、「闘う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう」「冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ」という歌詞がずっと頭の中でリフレインするし、励まされませんか? でも、この曲は長く、フル尺でないと意味がないので別の曲を選びますね。
私はSnow Manの大ファンで、彼らがデビューした2020年は、私がポーラの社長に就任した時期でもあります。この曲は、自分を励ましながらも、「一人で超えるのではなく、みんなで超えよう」とお互いを励まし合う歌で、Snow Manファンの中でも好きな方は多いのではないでしょうか。最後はミーハーな話になってしまいましたが……Snow Manの「ナミダの海を超えて行け」を聴いてください。
田中:今夜のゲストはジョブレスなフリーター、及川美紀さんでした。どうもありがとうございました。
<M>
Snow Man「ナミダの海を超えて行け」
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<DJ後記>

ジュンカムこと田中準也:
ポジティブもネガティブも全ての経験を受け入れ、常に自然体の及川美紀さん。『商売とは人を見ること』であること、また人生を楽しむ秘訣を学ばせていただきました。「天下のサンドバック」「天下の雑用係」と、前しか見てない言葉のチョイスも素晴らしく、楽しすぎて放送尺を忘れそうでした(笑)。
ノブこと長崎亘宏:
今回の放送を通じて、及川美紀さんを知る人も、そうでない人も、その魅力に思わず惹き込まれてしまったのではないでしょうか? ポーラ時代も現在も、人から頼まれたら基本的に断らないスタンスとのこと。それを貫き通すのはとても難しい事だと思います。でも、それをしなやかに実践する及川さんはお見事としか言いようがありません。これからも大注目です!
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