インターエフエムで毎週水曜日21:00から放送している「J LIVE RADIO」は、「仕事も遊びも本気!」なビジネスパーソンを応援するラジオプログラム。DJを務めるのは、株式会社サン 代表プロデューサー / コネクターの田中準也さんと、Cステーション エグゼクティブプロデューサーの長崎亘宏です。毎回、各界で活躍するビジネスパーソンをゲストに迎え、「人生のステージ」についてや、「人生を楽しむ秘訣」をお伺いします。
8月20日・27日のゲストは、ライオンのブランドマネージャーや資生堂のブランドマネージャー、新価値創造マーケティング本部長などを歴任され、2025年にMICHI inc.を立ち上げた北原規稚子さんです。2回にわたる放送の内容を、本記事で一挙にご紹介します。
*Podcastでもお聴きいただけます!
<ゲスト>

2002年にライオン株式会社へ入社。 営業を経て、ライオン史上最年少の27歳でブランドマネージャーに就任し、 ボディケアの新ブランド立ち上げに従事。 2010年に株式会社資生堂へ入社。『TSUBAKI』、『ELIXIR』などのブランドマネジメント、MAQuillAGEなどメイクアップのマーケティング部長を経て、2021年からは副CMO、マーケティング本部長、 新価値創造マーケティング本部長など、マーケティング組織を広く管掌。2023年より化粧品以外のブランディング、マーケティング支援をする個人事業を立ち上げ 、2025年1月に「株式会社MICHI(MICHI inc.)」として法人化。ゼロからイチの価値を創り出すブランディングを強みとし、ブランドパーパス実現、ブランドのプロポジション強化につながる戦略やエグゼキューションを常にリードしてきた。アート&サイエンス発想で新価値を創り出す組織づくり、人材育成にも尽力。
しなやかな北原さんにもあった、「鉄の女」と呼ばれた時代
田中:今日のゲストは、MICHI inc.代表の北原規稚子さんです。北原さんは、ライオン史上最年少の27歳でブランドマネージャーに就任。その後、出産、子育てを経て、資生堂へ入社されました。その後も、マーケティング本部長、新価値創造マーケティング本部長等を歴任され、今年、MICHI inc.を立ち上げてご活躍されています。
早速ですが、北原さんの忘れられない「人生のステージ」とは、なんでしょうか?
北原:化粧品会社時代、マネージャーになったときに起きた「鉄の女事件」ですね。もともと私はアイデアを出したり、自分の感性を活かすことが好きでマーケターを志したという経緯もあります。一方、私が尊敬する大先輩はいつも理論的に数値とロジックでマーケティングをされていて。本当にかっこよかったんですよね。その大先輩に憧れて学ぶうちに、その先輩の仕事スタイルを真似していたんです。
そんななか、後輩が私のことを「鉄の女」と呼んでいるのを知って。「悪口を言われている⁉」と、とてもショックを受けました。
田中:その方は悪口だとは思っていなくて、「北原さんはとてもロジカルで理論派だ」という意味で、「鉄の女」と呼んでいたわけですよね?
北原:そうです。でも、結局は私は大先輩の真似をして、いつのまにか「大先輩の廉価版」になっていたんです。私自身は感性や想像力でマーケティングをしていると思っていたので、本当にハッとさせられましたね。自分を見直すきっかけにもなりました。
田中:尊敬する大先輩とは、どのような方ですか?
北原:二人いらして、一人はジュンカムさんもよくご存じのマーケティング界の重鎮の方。もう一人が、その方に教えを受けた女性の先輩です。お二人から、素晴らしいことをたくさん教えていただいて、それを一生懸命真似していたので、今でも自分のためになってるのですが……。自分のキャラクター性まで全部飲み込まれて、自分を見失っていたんですよね。
当時はプライベートも含めて、全てロジックで判断していたんだと思います。口調まで影響を受けて、例えば、「なぜならば」などと連呼していました(笑)。
田中:「理由は」や「目的は」も使いがちですね(笑)。もともとマーケティングという仕事は、「左脳と右脳の両方をバランスよく使う」「アートとサイエンスを両立している」などと表現されていますが、デジタルの時代には効率や結果が求められるので、どうしてもロジカルにその再現性を語りたくなる。しかも、それで成果が出れば、以降も信じて突き進むので、どんどんデジタライズされてしまう感じはありますよね。
長崎:本当にそうですね。これまでのゲストの方からも、今のデジタルマーケティングの功罪を考えると、罪の部分も大きいという話もよく出ていました。いわゆる「ROI(Return on Investment)=投資利益率」、コストパフォーマンスが重視されすぎてしまう傾向は否めませんよね。
データを大切にしつつも、自分の感性で新しい価値を生み出していく
田中:「自分らしさが失われている」ことに気付いた後、そこから自身を変えようとされたのですか?
北原:「『鉄の女』という呼ばれ方はしっくりこない」と感じながら過ごしていましたね。でも、自分のキャリアについてかなり悩みました。そんなとき、大先輩から「あなたが商品だったとしたら、どんなタグが付いていると思う?」と言われたんです。
この問いに対する私の答えが、「私は新しいコンセプトを考えて戦略を立案するし、提案書も綺麗に作成するし、P/L(損益計算書)も管理する。KPIを設定して、PDCAも回して、メンバーを盛り上げて……など何でもやります」。全部を詰め込んだ盛り盛りの内容だったんですよね。
それを聞いた大先輩からの答えは、「だからダメなんだね」というものでした。再びショックを受けましたね。ですが、しばらく経ってから気持ちを立て直して、「自分のタグをきちんと考えよう」と思えるようになり、今に至っています。
この事件をきっかけに、「アイデアを出して新しい価値を作り、それを商品やサービスとしてユーザーに届けていきたい」という、私が小さいときから大好きだった「本当にやりたいこと」を再確認しました。データだけではなく、これからは自分の感性を信じて新しい価値をどんどん作っていく。「新価値創造に困ったら、北原を呼んでください」と言えるような、そんなコンセプトに自分自身を変えていきました。
長崎:とはいえ、ご自身がそう変われたのも、データの見方の基本を学ばれた経験があったからこそでは? 例えば北原さんがどなたかを教育されるときは最初、データを読むところの基本から教えるのですよね。
北原:その通りです。私自身、きちんと言語化し、再現性を高めて人に伝えられるようになったのは、データの基礎があったおかげなので。だからといって、人間性やキャラクター性まで影響を受ける必要はなくて。データを武器として手に入れながら、表面に出るものは自分らしく、まさに「ステージで踊るキャラクターでいい」と気が付いたんですよね。
田中:北原さんは、音楽やステージなどで自己表現をする幼少期を過ごされていましたよね。反復練習をして型をしっかり身に付けて、そこから自分のオリジナリティーやユニークネスを出していくことを、知らず知らずにずっと続けていた。ふと振り返ってみたら、型にはまりすぎていた自分に気付いたわけですね。
北原:まさにそうですね。例えば、プロジェクトメンバーが商品のアイデアを出してくれたときに、心では「うわ、めっちゃ可愛い。売れそうじゃん!」と思ってるのに、そう言うのを我慢して「こういうときはどういうロジックから確認したらいいのかな?」と話していました。
でも、自分のコンセプトを刷新してからは、「めっちゃ可愛い!」と素直に言えるようになったんです。そのうえで、「どう考えたの?」と掘り下げていく。自分自身のコミュニケーションが変わるだけでも周りの見方も変わってきますし、自分らしくいることで仕事の質も上がりますよね。
田中:我々の駆け出しの頃は、「自分の意見を言ってはいけないんじゃないか」とか、「セオリーから外れたことをしてはいけないんじゃないか」と考えがちでしたね。純粋に「これが好き」とは言いづらい環境が、マーケティングやメディアのクリエイティブにはあったように感じます。
北原:かなりありましたね。「正解を探す」というか……。マーケティングのフレームワークに当てはめた結果、気付けばどれも80点の「大当たりしないけれど失敗もしないマーケティング」になっている。自分もそうですが、今でも多くの人がそうなりがちかもしれません。
でも、「これが正解だ」というデータ的な根拠だけでなく、「自分はこれが好きだ!」という気持ちを思い切って発信して、ディスカッションしてみる。そうすることで、新しい価値が生まれるのだと自身の経験からも感じています。

「じゃないほう」市場を探れ! 北原さんのマーケティング論
長崎:北原さんのお名前を検索すると、インタビューやカンファレンスで「じゃないほう」というキーワードを口にされている記事が多くヒットしますよね。その訳が今ようやく分かりました。80点狙うことは確かにできる。でも、それでいいのか。やっぱり「じゃないほう」の市場を模索しないと!
北原:そうですね。マーケティングで言われている「新しい価値」や「新しい市場」を作るのはなかなか難しいので、自分がいつも見て研究している市場「じゃないほう」に目を向けてみると、新しい価値創造のヒントがある気がしています。
結局、同じ市場を見続けていると「ベター競争」になってしまうんです。例えば、化粧品であれば、「より潤いが出ます」「よりハリが出ます」というベターな提案。市場調査に投資し、そこから導き出したお客様が欲しい商品を強く打ち出していく作業なんですけれど……。でも、このやり方ではプラス10ポイントくらいしか成長できないイメージがあるんですよね。
一方、事業が2倍、3倍と大きく成長するのは、「who/where/what」がピタッとはまる新しい価値が創造できたとき。つまり、いつもの市場「じゃないほう」が開拓できたときだと思うんです。今の日本は人口も増えない。そういう時代だからこそ、「じゃないほう」に目を向けてみると良いことがあるかもしれませんと、よくお話をさせていただいてます。
田中:資生堂時代も自分の好きなブランドを「好き」とハッキリ言って、本当に心の底からお客様に勧めるブランドマネジメントされていた北原さんですが、自分の「好き」を貫く信念の源泉はどこにあるんですか?
北原:中学生の頃、関西に住んでいたので阪神淡路大震災を体験しました。当時、私が勝手に感じてたのかもしれませんが、「生き残った人は、亡くなった方々の分まで一生懸命に生きなければ」という若い世代へのプレッシャーがあったんですね。
でも、いくら一生懸命頑張っても、つらいことは消えない。頑張りすぎたせいで、ひどい肌荒れにも悩むようになりました。
高校生になったある日、プレハブの商店街にある小さな化粧品店に足を運んだことがありまして。そのお店の女性が、私の手の甲に化粧水を少し出してくれたんです。香りを嗅いだ瞬間、これまでの何年分ものつらさが一気に流れ出すような気がして、涙がぶわっと止まらなくなりました。
化粧を教えてもらうっていうよりは、人生を教えてもらうという初めての感覚。私の話も丁寧に聞いてくださって、その温かさに癒されて肌がどんどん綺麗になっていったのです。それからというもの、メイクアップするのが本当に楽しくなって……という原体験がありました。
当時はマーケティングという言葉も分かっていませんでしたが、「ものづくりを通じて人々に豊かさを届けたい」という想いはここから始まっているのだと思います。何かあったとき、その想いに立ち返るという意識は強いかもしれないですね。
プライベートではビッグバンドでトランぺッターとして活躍
田中:大企業のマーケティングのトップとして長く活躍された北原さんは、部下の人数も扱っているブランドの数も多いですよね。プレッシャーに打ち勝って自我を保つ秘訣はありますか? 仕事とプライベートのバランスの取り方を教えてください。
北原:実は仕事に偏りすぎたりもしていますが、2013年くらいから小さい頃にやっていたトランペットを再び始めました。楽器屋で見て、キラキラ輝くトランペットに惹かれて。そこそこ高額だったのですが、衝動買いをしたんです。30年ぶりくらいに吹いてみたら、普通に音を出せたんですよね。その後、ネットでいろいろ検索し、1週間も経たないうちにジャズのビッグバンドに飛び込みました。
ビッグバンドには、大学までずっと楽器演奏を続けて、コンテスト出場の経験をお持ちの方ばかり。そこに、音を少し出せるからということで、突然仲間入りさせていただきました。普通は最初、「この人は誰?」と思いますよね(笑)。
ビッグバンドにはトランペットが5パートあって、私は4番や5番を吹くことになります。絶対に上手くなりたいし、迷惑はかけられない。ですからビッグバンドとは別に、掛け持ちで教室に通いながら、必死に練習を重ねました。当時はとても忙しかったけれども、最終的にはビッグバンドの皆さんに受け入れていただいて、正式メンバーとして活動しています。
この体験で分かったのは、音楽は上手い下手ではなく、仕事と同じように「自分らしさを見つけていく作業」であること。力強いハイノートを出す男性トランぺッターと同じようには吹けないけれど、「こういう演奏だったら自分らしく、バンドに貢献できるかもしれない」という感覚が、練習をするうちにつかめてきたんです。
バラードで聴かせる柔らかい音などテーマを決めて集中していると、「自分、やるじゃない!」と感じることも多く、バンドでもソロパートもいただいています。自分の居場所を、今までとは違う特性の中で見つけられたという嬉しさがありますね。
田中:プライベートでも、自分の「じゃないほう」市場を見つけられたとは! しかも、情熱のかけ方がとても濃くて、仕事もプライベートも垣根がありませんね。マーケティング界隈では、よく市場を池に例えますけれど、一つの池だけではなく、「違う池が作れるんじゃないか」と常に新しい池を考えている。それをプライベートでもやってこられているのだなと。
北原:私の場合は、大きな池の大きな魚よりも、小さな池で小さな魚が自由に泳いでいるほうが好きですけどね(笑)。
カンヌライオンズを楽しみ、「TellingよりDoing」が大事だと実感
田中:北原さんの最近の活動についても聞いてみたいと思います。海外に随分行かれてるようですね。
北原:カンヌとニースに行ってまいりました。目的は、マーケティング界ではお馴染みの「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)」。カンヌ国際映画祭の後に開催される、広告界のオリンピックのようなアワードです。
これまで事業会社で働く中で何度もお誘いいただいていたのですが、なかなか行けておらず、この機会に。カンヌライオンズのついでに南フランスに飲みに行こうかなぐらいの感覚で、卒業旅行を兼ねて行ってまいりました。
田中:ライオン、資生堂と常にマーケティングの最前線に立たれて、独立後も仕事を頑張ってらっしゃる北原さん。気分を変えて少し息抜きをという、ご自身へのご褒美も兼ねて行ってこられたんですね。
北原:まさにそうですね。もともと、南フランスやイタリアに少し長めに行ってゆっくりしたいと思ってたんですよね。去年のカンヌライオンズの審査員をされていた方が、「同じ会社の先輩が独立したから、どうせなら一緒に行こうよ」と誘ってくださったんです。
「まさか自分で行くなんて!」と思いましたが、今年からスタートアップパスという大企業のブランドに所属していなくも参加できるパスが、比較的優しいお値段で登場したんです。そこで、「知り合いがたくさんいそうだし、行ってみようかな」と申し込んだら、審査に通過。視察も兼ねて、遊び半分・仕事半分で行かせていただきました。
ビジネスプログラムのカンファレンスも存分に楽しみました。実は、日本から行ったメンバーは、「昼から飲みに行くんだろうな」と思っていたのですが、非常に面白く、会場から離れられなくて! かなり真面目にずっと聞いていましたね。夜はアワードの発表を見て。その後も明るいので、明るいうちから……暗くなってからもですが、ずっと飲んでいました。
田中:どの分野を中心に、どういう衝動でカンファレンスに参加されたんですか?
北原:いつもはクリエイティブの方とか広告の代理店の方がレポートしてくださる作品を日本で見ているだけでした。ですが、会期中毎朝開催している、「CMOs in the Spotlight」というグローバル企業のCMO(最高マーケティング責任者)たちのセッションに興味がわきまして! 生の声で聞いて、ニュアンスまで理解したいと思ったので、旅行の前に3カ月間、ライザップイングリッシュをやりました(笑)。
嬉しかったのは、離れた国のCMOたちが語っていた「こういうマーケティングはこれから大事だよね」といったことが、私の考えと同じだったこと。大きな自信になりましたね。また、「こういう言葉を使って新しい価値を伝えていこう」など、ヒントを得ることも多く、非常に刺激的でした。
例えば、私が勝手に「ブランド・パワポの中だけ現象」と訳している、「The PowerPoint Brand Phenomenon」もその一つです。パワーポイントに、ブランドのプロポジションや、ベネフィット、RTB(Reason to Believe)など、マーケティングで重要とされる規定を全て詰め込んで、さらにイメージコラージュやクリエイティブガイドまで入ったブランドブック。とても綺麗なpowerpointが出来るのですが、実行段階になるとブランド体験に落とし切れずに「ただ売るだけの体験」になってしまっている。この現象は、「業界あるある」だと思っていて。
広告クリエイティブの話だけでなく、そうした結構実践的なことも幅広くセッションのテーマになっていたのが興味深かったですね。現地の人の反応も能動的で、「Woohoo!」などの掛け声もかかるほど。日本だとシーンとしている場合が多いんですけれど(笑)。
私もセッションを聞いて感銘を受けた方には、「あなたのお話のこのポイントにとても共感しました」と突撃して伝えました。この機会に、せっかくだからつながりたいなと思って。突撃されたほうは、「誰?」という反応だったと思いますが(笑)。
田中:突撃! ビッグバンドのときもそうでしたよね。すごい行動力、度胸ですね。
北原:今回参加して、「TellingよりDoing」というキーワードにも共感しました。どう言うかではなくて、ブランドが何をするかをお客様は見ている時代だということ。そういった観点では、「Glass: The Lion for Change」ゴールドを受賞した日本のヘラルボニーさんも素敵でした。まさに「何をするか」という視点を、日本代表として世界に示した素晴らしい活動事例だと思います。
長崎:10年前、20年前のカンヌライオンズは、CMや広告作品のアワード。数年前に単なる広告グランプリではなくて、クリエイティブ全てを対象とすることになったんですよね。今回のヘラルボニーさんの受賞作は、存在そのものがクリエイティブ。障害者の方が作るアートを販売するという取り組みで、ネガティブをポジティブに変えたという意味で唯一無二だと思います。それを目の当たりにされたんですよね。
北原:そうですね。プレゼンも聞きましたし、受賞の瞬間も同じ会場にいました。日本とは文化の違う場所で一生懸命英語で話されていて。彼らが一丸となって取り組んでいることに会場全員が共感し、とても温かい雰囲気になっていくのも感じました。
日本の企業が、世界から輝いて見える時代をまた作りたい
田中:海外と日本、あるいはブランド単位で見たときに、違いを感じたことはありますか?
北原:今の時代のブランディングは、パーパスや社会的・経済的な価値だけではなく、本気の活動として説得力があるかが問われていると思います。そして、社会を巻き込んでいくためには、いろいろな人を説得しないといけない。そこがなかなか難しいところではあります。
ただ、海外はすでにそれが標準になっている。お客様も社会価値にしっかり向き合っている企業を選びたいっていう考えが当たり前に定着しているんです。一方、日本は「どう売るか」「どうよく伝えるか」に視点が向いている傾向はありますよね。そういう意味でも、ヘラルボニーさんは日本の誇りです。あの活動がもっと世界に広まっていくといいなと感じました。
田中:ご自身のビジネスには、どのような影響がありそうですか?
北原:「日本の企業が、世界から輝いて見える時代をまた作りたい」という思いが強まりました。実は、私が独立したとき、「99%の日本の企業はマーケティングを取り入れてない」という話を聞いたことがあります。このとき、「私はせっかく1%の企業でマーケティングの知識やスキルを得ることができたのだから、残りの半生は、99%の会社のために活動したい」と思ったんです。
例えば、事業継承されないかもしれない中小企業や、素晴らしいものづくりをしている地方の企業。こうした企業は、海外で評価される企業の活動と比較しても、「日本を良くしたい」「地域を盛り上げたい」という本当にピュアな思いがあるんですよね。ですから、カンヌライオンズで体験してきたことを活かして、ブランディングの力で一緒に盛り上げていけたらいいなと思っています。
長崎:北原さんは、すでに出来上がっているものや人気のあるものではなく、あえてそこ「じゃない」部分に目を向けている気がしますね。「地方」や「世の中を良くする」といったキーワードも出てきましたが、マーケティングの最前線に立つ人はどうしても費用対効果を重視せざるを得ないものです。そんな中でも、「これだけは盛り込みたい」という思いを大切にしている。その視点を持っているのが北原さんなのだと、お話を伺っていて感じました。
田中:北原さんはいつもキラキラしてますし、生き方も自然体ですよね。
北原:私も愛する会社に長く勤めていましたが、キャリアの選択肢はいろいろあっていいと思っていて。大企業でキャリアの階段をのぼり、いずれは若い方に役職を譲って定年を……というのも素晴らしいですし、そのような道を歩んできた先輩もたくさんいらっしゃいます。
でも、自分らしくばっかり生きていたら、自分らしくも生きれない。自分らしいステージで踊るためには、自分らしくないステージを一生懸命踊る時期があってこそだと思います。
長崎 :それも、「じゃないほう」ですね!
遊びが仕事に、仕事が遊びに! オンとオフがシームレスに行き交う
田中:独立されて一人で働くことが多くなると、プライベートと仕事の時間の切り替えは大変ではないですか?
北原:もう、スイッチがオンのまま(笑)。切り替えなくなったかもしれないですね。プライベートの時間も、人と会ったり、演奏をしたり。一人で休日を過ごすより、誰かと話したりお酒飲んだりしてるほうが楽しいので! そこでの会話が、お仕事につながることもありますし。かなりシームレスで、どこから仕事なのかすら考えたこともありません。最近は時間が流動的に調整できるようになったので、音楽のほかにも、絵を描くことも多いですね。
田中:お洋服のデザインもされていますよね。
北原:そうなんですよ! 絵を描いていたら、洋服も作りたくなってきて。いろいろやってるうちにサンプルが上がってきたので、今日も自分で着ています。遊びが仕事になったり、仕事が遊びになったり。全てがつながっているので、最近はノーストレスですね。
田中:いいですね。私もそんな人生を送ってみたいです。ちなみに今後、どのような活動を予定していますか?
北原:具体的にはまだ決まっていませんが……カンヌライオンズで良い刺激を受けたので、企業の社会価値向上につながるような取り組みをしたいです。パーパスに向かってブランディングを考えたいという企業の方と、一緒にお仕事をしてキラキラできたらなと思います。
田中:どうもありがとうございます。では最後に、北原さんのパワーソングを聞きながらお別れしたいと思います。北原さん、曲紹介をお願いします。
北原:大学卒業後、この曲を聞きながら上京してきたという思い出の曲です。当時の気持ちを忘れないためにも、人生のステージに迷ったらいつも聞いています。 orange pekoeさんの「やわらかな夜」です。
<M>
orange pekoe「やわらかな夜」
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<DJ後記>
DJジュンカムこと田中準也:
これまでこの人はどれだけの経験をしてきたのか、と言うぐらい「戦略」と「実行」が伴っている方でした。独立後、引く手数多なのもうなずけます。私たちが仕掛ける音楽フェスJ LIVEDAYにもこの放送直後の8月30日に、ゲスト出演していただきました。パワフルで華麗なトランペットと歌声はまさに他者に真似できない、北原さんだけのパワーを感じました。これからの活躍も要チェックです。
DJノブこと長崎亘宏:
北原さんに実際に会った人は少なからず、その「柔らかな立ち振る舞い」に驚かれると思います。メディアのインタビューや、ご自身のアウトプットから受けるインテリジェンスやクールな印象とは異なるからです。知れば知るほど、ユーモア満載で、私たちの親父ギャグにも付き合ってくれる。だから、ギャップ萌えですね(笑)。さらに、ステージに立てば、伸びやかに歌い、トランペットも奏でる。まさに、カメレオンのような人!これからも、追っかけていきたいと思います。

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