企業のSDGs取り組み事例

日本初の挑戦! 使用済みの「おくすりシート」を回収してリサイクルするプログラムを、第一三共ヘルスケアが始動。

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製薬会社の第一三共ヘルスケアは、2022年から、使用済みのおくすりシートを回収してリサイクルする「おくすりシート リサイクルプログラム」を開始しました。おくすりシートとは、医薬品やカプセル剤を一錠ずつ分割、密封できる医薬品包装資材のこと。同プログラムを担当する広報部の3名から、取り組みを始めた経緯や、回収の仕組みが早々に確立した背景などを聞きました。

(トップ写真・左から)広報部 デジタルコミュニケーショングループ 秋山尚輝さん、広報部 広報グループ 岩城純也さん、広報部 広報グループ 中村美由希さん
*記事の内容は2025年4月取材当時のものです。

製薬会社として、廃棄されるおくすりシートの資源循環に着手し、"作った後"にも責任をもつ

──まずは御社の事業概要について教えてください。

岩城 第一三共ヘルスケアは、薬局やドラッグストアなどで生活者自らが選択して購入できるOTC(Over The Counter)医薬品の製造・販売を主な事業としている会社です。提供しているお薬は、かぜ薬、解熱鎮痛薬、胃腸薬、皮膚のお薬などさまざま。OTC医薬品以外にも、機能性スキンケア・オーラルケア・食品など幅広い製品の製造・販売をしています。

──御社がサステナビリティに向き合い始めたのはいつからですか?

岩城 2019年から本格的な活動を始めました。弊社では、製品のブランドごとの取り組みは進んでいたのですが、会社としての取り組みが未着手だったのです。

活動を始めるにあたっては、各部所のマネジャーが一人ずつ集められ組織横断プロジェクト結成。約20名のメンバーたちは、「第一三共ヘルスケアとして何をするべきか?」と、まっさらな状態から議論ました

製品の個装箱には環境にやさしい用紙とインクを使う、販促物のプラスチック使⽤を削減する、中間包装の省略簡素化を進める......など、その時に出た多くの案、現在全社的な取り組みとして推進しているところです。

それら取り組みの一つとして始まったのが、「おくすりシート リサイクルプログラム」の実証実験でした。

第一三共ヘルスケア 岩城純也さん
「視点の異なる各部所が集まった部門横断のプロジェクトでは、毎回、活発な議論が繰り広げられていました」と話す岩城さん。

──「おくすりシート リサイクルプログラム」について改めて教えてください

中村 お薬を包装する「おくすりシート」の多くは、日本で年間13,000トン(※2)以上も生産されています。おくすりシートはプラスチックとアルミニウムで作られていますが、残念ながら再生資源としてあまり認識されていません。自治体でのマテリアルリサイクルのスキームは確立しておらず、使用後はその多くが資源として活用されていない状況です

そこで、プラスチックとアルミニウムをリサイクルして新しい製品に活用するというのがこのプログラムです。社内でサステナビリティを検討していたちょうどその頃、テラサイクルジャパン合同会社から同プログラムを提案されました。同社は、廃棄処分されているモノを資源循環させるためのソリューションを開発する会社です。

社内からは、私たちは製薬会社として、作った後のことまで考えるべきなのではないかと賛同の声が挙がり、2022年の初頭、「おくすりシート リサイクルプログラム」の始動が決定したのです。

第一三共ヘルスケア 広報部  中村美由希さん
「このプログラムは、誰に対しても自慢のできる意義ある取り組みだと思っています」と、中村さん。

※1 参考:富士キメラ総研「2019年 メディカル・ライフサイエンスケミカルの現状と将来展望」(PTPシート国内市場2018年実績13,400トン)
※2 テラサイクルジャパン合同会社調べ

前例なしの挑戦。暗中模索の社員2名に押し寄せる質問へのアンサーは「やってみないことには分かりません!」

──プログラムの準備期間、社内ではどのような動きがあったのでしょうか

岩城 プログラムでは、弊社実証実験を行う自治体の選定や依頼、拠点の選定、PRなど運用部分を担い、プログラムの運営とリサイクルテラサイクルジャパンが担うことになりました。大まかな道筋は描けていたものの、日本では初めての取り組み(※3)。まずは、1年間の実証実験をすることになりました。

「一体どのくらいの量のおくすりシートが集まるの?」「費用はいくらかかるの?」「どの自治体と一緒に実施するの?」──。

当時プログラムの始動に携わった2名の元には社内外からさまざまな質問が押し寄せましたがやってみないことには何も分からない!」というのが正直なところ。業務推進部総務グループだった彼らは、施設設備の管理業務や社内行事の運営など日々の通常業務に追われながら、暗中模索でプログラムの準備を進めていといいます。

実施エリアは、複数あった候補都市のうち神奈川県の横浜市に協力を要請することに。環境問題への意識が高く先進的な取り組みを多数行っていることや、県としてお薬の購入料が高いことなどから選定させていただきました。実証実験の開始当初、おくすりシートの回収量は多くて数百キログラム程度と想定し、回収拠点は市内に30カ所設置。横浜市の職員さんに協力いただきながら回収ボックスを一つずつ設置していきました。

──おくすりシートの回収条件は設けたのですか?

薬の残っているものや輪ゴムでくくられたものなどは、回収不可とさせていただきました。ただし、回収は弊社製品のおくすりシートだけでなく、全企業のおくすりシートを対象。これは、私たちが製薬会社として、おくすりシートのリサイクルの仕組みを作り社会に根付かせるための覚悟です。実証実験は2022年10月から始まりました。

おくすりシート くるりんBOX
回収拠点に設置された専用の回収ボックス「おくすりシート くるりんBOX」。各拠点の入り口や待合室など、利用者の目に付きやすいところに設置された。

──プログラムの反響を教えてください。

中村 おくすりシートの回収量は、「多くて数百キログラム程度だろう」という我々の予想をはるかに上回り、実証実験の1年間で、1トンを超える量にまで達しました。反響が大きくなるにつれ協力者も増えていき、回収拠点も1年間で最終的には60拠点にまで増設。回収量も回収拠点も右肩上がりに増えていく結果となりました。

──想像以上の結果になったのはなぜなのでしょうか

岩城 一つの要因は、回収拠点を生活者にとって訪れやすい調剤薬局、ドラッグストア、公共施設としたこと。もう一つは、おくすりシートが軽くて汚れにくく持ち運びしやすいものだったということです。そして、何より回収拠点のご協力が大きかった。

各回収拠点では、回収率を上げるためのさまざまな工夫をしてくださっていました。ある調剤薬局では、おくすりシートの回収を服薬指導の一環として活用してくださっていたそうです。「お薬が飲み終わったら、ここの回収ボックスに入れにきてくださいね」と伝え、お薬の飲み忘れの防止や、薬局への再訪を促していたというのです。

前例のない取り組みだったため、弊社としては開始当初、もしかしたら拠点の皆さんに大変なご迷惑をかけてしまうのではないか......という心配がありました。拠点の皆さんも不安がゼロではなかったと思います。実際に始まってみると、たまったシートの配送作業からプログラムに関する問い合わせの対応まで、負担はそれなりにあったはず。しかし、開始から現在に至るまで、1カ所も離脱することなくご協力を継続してくださっていることが、結果につながったのではないかと思うのです。

※3 テラサイクルジャパン合同会社調べ

広報成功のカギは特設サイトの作り込み。ブラッシュアップのプロセスにはWebグランプリへの参加を組み込む

──広報活動も活発だったように見受けられます。

中村 はい、このプログラムの後押しになったのが、広報活動でした。特に、プログラムの始動と共に開設した特設サイトには、現在も多くの方が訪れてくれています。

「おくすりリサイクルプログラム」資料

「おくすりリサイクルプログラム」資料
特設サイトでは本プログラムのコンセプトを、文章だけではなく視覚的にも表現。回収拠点インタビューやTOPICSは、定期的な更新を続けている。

秋山 特設サイトは作って終わりにせず、数カ月に一度のペースで更新を続けています。特に、回収拠点の店舗スタッフにプログラムへの思いをインタビューする記事制作には力を入れていて、毎回しっかりと取材を実施。プログラムを身近に感じていただくための工夫です。

ウェブサイトはPV数などの実績を数字で追える一方、数字の背景が読み取れないこともあります。そこで、客観的な評価を得ようとWebグランプリ(※4にエントリー。各参加企業からは、我々の特設サイトに対する丁寧なフィードバックコメントをいただき、ご指摘いただいた箇所はすぐに改修しました。

「企業グランプリ部門:プロモーションサイト賞」グランプリを受賞できたのは思いもよりませんでした。高い評価を受けたのは、サイトのビジュアルページをスクロールすると、おくすりシートでできたパズルのピースが組み合わさり地球になります。これには、「小さなアクションが環境を守る」という本プログラムのコンセプトが込められています。

第一三共ヘルスケア 広報部 秋山尚輝さん
「Webグランプリは、気づきを得られるたくさんの評価コメントをいただき大変貴重な機会となりました」と秋山さんは話す。

岩城 特設サイトは新たな協力者を募るだけではなく、協力者の皆さんの工夫やご活動への思いを共有し合ったり、そのメッセージを弊社内に共有したりする"場"もなっています。

中村 当プログラムがメディアに取り上げられると、そのたびに、SNSでは「#おくすりシートリサイクルプログラム」というハッシュタグでプログラムが話題。特設サイト、メディアでの露出、SNSの相乗効果でプログラムへの注目度は増し、現在は、全国の方が関心を寄せてくださっている状況です。

※4 公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構が主催する「第12回Webグランプリ」

「当たり前の社会活動にするために」。同業他社や医薬品関連の業界団体、自治体や行政などとの協働を視野に

岩城 回収の仕組みが確立した一方で課題となっているのは、リサイクル方法です。当初考えていた、おくすりシートをプラスチックとアルミニウムに剥離し、それぞれをリサイクルする方法は、難しいことがわかり、現在はさまざまなリサイクル方法を検討、実践しているところです。

粉砕したおくすりシート
粉砕したおくすりシート。現在は、アルミニウム部分に印刷された色とりどりの印字を生かし、素材感を残した板材を作っている。

中村 当プログラム第一段階の成果としては、粉砕したおくすりシートを剥離せずにそのまま再生素材としたプロダクトを制作中です。これらはリサイクルプログラムの象徴として、いずれ協力拠点にお送りしたいと考えています。

粉砕したおくすりシートを剥離せずにそのまま再生素材としたプロダクト,時計

粉砕したおくすりシートを剥離せずにそのまま再生素材としたプロダクト,ファイルボックス

粉砕したおくすりシートを剥離せずにそのまま再生素材としたプロダクト, ペン
おくすりシートを粉砕した素材で作ったプロダクトの数々。粉砕した素材を板材に加工し、建築資材として活用する案も出ているという。

岩城 もう一つの課題は、おくすりシートの輸送費。高齢化を背景に、おくすりシートの生産量は今後ますます増えることが見込まれています。実証実験が完了した横浜市ではプログラムの本格稼働が始まり、現在の回収量は1カ月で約600キログラム。おくすりシートの回収量が増えると、当然その分の輸送費もかかるので、プログラムを全国展開するとなると、輸送費の負担は今より大きくなります

中村 さまざまな障壁が立ちはだかっていますが、うれしいのは、私たちが困っていることを聞きつけて、社内やグループ会社の人たちが協力を申し出てくれていること。プログラムに協力していただけそうな企業を紹介してくれたり、活動に興味をもってくださった病院を紹介してくれたりしています。資金面の援助を申し出てくださる企業も出てきました。

秋山 私は、このプログラムが広がっていくことを見越して、サイトを前面に押し出したデジタル戦略を考えているところです特設サイトに磨きをかけて、プログラムの広がりを後押ししていきます。

岩城 このプログラムは、いつまでも弊社が持っていていいものだとは思っていません。私たちがリサイクルの形を作り、同業他社さんや医薬品関連の業界団体、自治体や行政などと協力しながら仕組みを整え、いずれ、誰にとっても当たり前のリサイクル活動にしなくてはならない。長い道のりになりそうですが、私たちが責任を持ってこの取り組みを社会に送り出していきたいと思っています

第一三共ヘルスケア 広報部  岩城純也さん、広報部 秋山尚輝さん、広報部  中村美由希さん
岩城さんは、「発想の柔軟な若手社員の2人が、今まで越えられなかった壁を軽々と越えてくれるような気がしています」と、中村さんと秋山さんへの期待を口にした。

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    川崎耕司

    Cステーション チーフエディター

    Cステーション責任者。Cステーション グループの、広告会社・広告主向け情報サイト「AD STATION」も担当。

撮影/村田克己 文/大野晴香(Playce) 編集・コーディネート/川崎耕司(C-station) 

Edited by 川崎耕司

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